有限会社 横溝工務店

「一服のひととき」— Web担当の茶道日誌

一服のひととき

 

第五回 茶室で感じる「夏」

お稽古場に足を踏み入れると、その時々の季節を肌で感じます。
使うお道具が「今はまさに夏ですよ」と、雄弁に語りかけてくれるんです。

たとえば、このお茶碗。

カニの模様のお茶碗

どうでしょう?
一目で「夏!」って思いますよね。

夏ならではの工夫「平茶碗」と「絞り茶巾」

そして、暑い季節に欠かせないのが平茶碗です。

平茶碗(模様は不明・うなぎ??)

いつものお茶碗よりも平べったいのが特徴で、これは熱いお茶を早く冷ますための工夫だと伺っています。
夏のお稽古で、この平茶碗が出てくると「あぁ、本格的な夏が来たな」と感じるんですよ。
この平茶碗を使う際には、通常の準備とは異なり、絞り茶巾(しぼりぢゃきん)でのお点前となります。

絞り茶巾を仕組んだお茶碗

平茶碗だから必ず絞り茶巾というわけではないのかもしれませんが、私のお稽古ではいつもセット。
絞り茶巾とは、お茶碗を拭く茶巾をすぐに使えるように用意するのではなく、お茶を点てるその場で、わざわざ水気を絞るんです。
その理由の一つは、静寂な茶室に響く茶巾を絞る水音が、耳にも心地よい涼を運んでくれるからだと言われています。
五感で涼を感じる、茶道ならではの趣ですね。

今回紹介するお道具たち

先生がいつも季節に合わせて、心を込めて選んでくださるんですよ。

お薄器

東雲(しののめ)溜塗(ためぬり)中棗(ちゅうなつめ)糸蜻蛉蒔絵(いととんぼまきえ)
内:梨子地(うち:なしじ)
※「内」とは棗(なつめ)の蓋の内側のことを指します。

お薄器 蓋の内側
右から
お濃茶器(茶入)・茶杓・お仕服

お濃茶器:昭阿弥(しょうあみ)青磁(せいじ)肩衝(かたつき)
お仕服:角の倉(すみのくら)金襴(きんらん)

茶室で味わう「極上のひととき」

お茶室には、その時々に最もふさわしいものが選び抜かれています。
時には愛らしいカニのお茶碗に、時には力強い掛け軸に、時には可憐な一輪の花に。
そうした季節の設えに触れるたび、私は一瞬にして現実の喧騒から切り離されるのを感じます。
その瞬間は、何にもとらわれず、ただ一人の人間として「今、ここ」に存在するという、極めて贅沢な時間を過ごしているんです。
これぞ、まさしく自分への最高のご褒美(ご褒美をもらえるほどの自分なのかはさておき、ですよ!)。
日常のあれこれを手放し、五感で季節の移ろいを味わう茶室でのひととき。
あなたにとっての「極上の時間」は、どんな時に訪れますか?

それでは、また次回。

 

※この記事は、私がお稽古(表千家)で日々感じている茶道の魅力を、私の言葉で綴ったものです。
茶道の世界は奥深く、流派や先生によって様々なアプローチがあります。
ここに書かれていることが、すべての方に当てはまるわけではないかもしれませんが、茶道への興味のきっかけになれば幸いです。